03 5414の嘘‐after the first story‐



仁王先輩は呼吸の数だけ嘘をつく。

そのスタンスはあれから三ヵ月経つ今も当然変わらず、俺や周りは日々からかわれ、振り回されている。
だけど変わったこともある。

「……」
「…………」
「……あの、……」
「……なん」
「あの……、えっと……」

隣というには間が開きすぎた、だけど他人というには近い距離。そんな距離をずっと保ったまま学校からずっと歩き続けている。
校門を出て数分。その間何度も今みたいに話しかけ、言葉が見つからず視線をコンクリ上に彷徨わせ、結局は口を噤む。その繰り返しだ。

――告白されたのなんてあれが初めてだった。

答えを聞かないまま行ってしまった先輩は、それ以降も答えを迫ることなく、かといって距離を取るわけでもなく、いたっていつも通りな態度で接してくる。逆に俺のほうが戸惑うくらいにフツーだ。

(って、それに甘えてる俺も俺だけどな……)

訊かれないから答えない。結論を出さないから関係は壊れない。変わらない。何も変わらない。

そんなのいいわけないのに。

小さな自己嫌悪が首を擡げ、たまらず大きく息を吐いた。一瞬感じた視線はすぐに気配を消す。まるで最初から何もなかったみたいに。
続く沈黙の中、ひとり悶々とつま先を睨み付けた。そうしたところでこの微妙な気まずさが消えるわけでもないのに、それ以外しようがない。

先輩は何も変わらない。だけど……だけど、変わったことも確かにあるんだ。
こうして二人で帰るようになったことだったり。昼休みを先輩と二人で過ごすようになったことだったり。間隔はもの凄く空くけれど、前よりメールの回数が増えたことだったり。
それは小さな小さな変化だけれど、少しずつ少しずつ、先輩との距離が近付いている実感がある。
だから尚のこと動けない。この距離感が……「今」が居心地良くて、俺は結局何も言い出せないんだ。

「……ずっりぃのな」

自分に舌打ちをした。それでもモヤモヤは消えてくれなくて、転がっていた小石を蹴っ飛ばす。八つ当たりされた小石はあさっての方角へ。コンクリの上を跳ねるように飛んでいったそれは、通りかかった原付に轢かれて瞬く間に弾き飛ばされてしまった。
だけど三歩進めば可哀相な小石のことなんて頭からすっかり抜け落ち、またモヤモヤに思考と心を占拠される。 あの日から先輩といるといつもこうだ。いっそのこと全部放棄したいと考えてしまうくらいグルグルする。

果ての無い沈黙。落ちていく夕陽が、少し離れた俺達の影をやんわりと裂いていく。
それがどうしてか凄く寂しくて。どうしても、いやで。

「……せんぱい」
「なん」
「せんぱい、……」

口下手なわけでもないのにやっぱりそこから先へ言葉は続けられなかった。
何をどう伝えていいのかわからず、わからないまま、右手を伸ばした。先輩の両目がそれを追う。落ちた視線が再び上がって俺のと絡むと、オレンジに染まった横顔がふっとやさしくなった。ような気がした。

「のう赤也」

宙ぶらりんの右手がそっと包まれる。

「ええこと教えちゃるき、よお聞いときんしゃい」

先輩の左手は見た目よりずっと男の手で、思っていたよりずっとゴツゴツしていた。

「俺ん口はな、呼吸するみたいに嘘吐き出すんよ」
「んなこと知ってますー」

先輩の目は、まばたきの数だけホントを教えてくれることも知ってる。
だから俺は、先輩のホントの数だけ、

「嘘の数だけ、俺ん目ぇ見るおまんを」

俺の目を見れない先輩を、

「探って、探って、探って」

探って。探って。探って。

重ならない視線の代わりに、指を絡める。
吐いた嘘の数だけ。見つからなかったホントの分まで。数え切れないほどの嘘と一握りのホントを掌で伝え合って。

答えを出さないズルさも、答えを聞かないズルさも、全部一緒に。
ふたつの手を、軋ませて。


5414の嘘
先輩の手は想像よりずっとあたたかいことを俺は知っている。それしか、まだ知らない。


仁赤創作イプ・お題3