吸血鬼パロ(洋風)

※完 全 内 輪 ネ タ で す 。
※ツイッターで垂れ流した妄想をアヤちゃんへ贈るためぶつ切りで形にしたもの。唐突に始まり、唐突に終わります。場面変化も唐突です。説明もほぼありません(…)
※設定…仁王/吸血鬼、主様。赤也/蝙蝠、眷属。幸村/吸血鬼。真田/黒鷲、眷属。
※さらっと流してやってください。深く考えず、さらっと。



3

生温い風が、完治した翼を撫でていく。
森の奥で梟が鳴いた。ここは危険・立ち去れ――そう仲間に知らせている。ほど近くで起こる異変を、声高らかに叫んでいる。

「――へえ。まだ命を繋いでいたんだね、その子」

凛然と佇む吸血鬼は、そう言って微笑した。

怖い。
何が恐ろしいのかも見失うほど、怖い。
心臓でも命でもなく、魂を掌握されてしまったように、身動きが取れなくなる。

知らずのうちに震えていたらしい躰を、そっと包むものがあった。
一気に冷え切ってしまった躰に響く鼓動。やさしい音。
主様の、心音。

(……主、さま……)

全身をすっぽりと包む左手があたたかい。溶けそうなほど。一定を刻む音に、恐怖すら霧散していく。呼吸がし易くなっていく。

「ああ、すまない。怯えさせてしまった? そんなつもりはなかったんだけれど……」
「今更じゃろ。よおツラ見せられたもんじゃのう」
「沙汰の絶えた仲間の存命を確かめにきただけだよ。元気そうで何よりだ。――仁王」
「おまんも変わらんのう。――幸村」

耳で拾うやり取りは、旧友に再会した時のような気安さなのに、確かな不穏さを滲ませている。たとえこの眼が見えていたとしても、感じるものに大差はなかっただろう。

傷はとうに癒えた。
だから早く。早く、主様の隣に立てる肉体が欲しい。
今この瞬間、あの恐ろしい者たちと対峙する主様の盾になりたい。

早く。早く――気ばかりが急く。
こうしている間にも、あの鋭い嘴が主様に向かってきそうで。引き裂いてしまえと、柔らかな命令が下りそうで。

怖い。
主様と同じ存在である吸血鬼より、獰猛な嘴や爪より、主様の血の香を嗅ぐことが何よりも、おそろしい。

「――赤也」
「……っ」
「じゃから寝てろゆうたんに……中入っとけ。すぐ済む」

呆れたような、心配しているような、なんとも言えない複雑な声が落ちた。すぐだと言いながら身を包む手が動き、暗い外套の内側へと運ばれてしまう。

違う。
怖かったのは確かだけれど、隠れたいわけじゃない。

必死に訴えても遅い。俺を運んだ手はもう離れてしまった。
納められた布が全身に纏わりつき、自由を奪われる。 普段は避けがちなくせに、こんな時ばかりシルクのシャツを着るなんて卑怯だ。好みの綿なら、こんなに足を取られることはないのに。
蝙蝠族の足は弱いと知っての選択だとしたら、人型に戻ってすぐの朝食はにんにくのオンパレードにしてやる――沸々と湧き立つお門違いな恨み言を内心に蓄えながら、動きを制限する滑らかな布を掻き分ける。

暫く奮闘すると、漸く外気を吸い込めた。
息苦しさからの解放に安堵したのも束の間、鋭い風切り音がすぐ傍を横切っていった。

「っ、ほんに相変わらずじゃのう。もうちっと辛抱きかんのか、おまんとこのソイツ」

揶揄するような声と同時に足場がぐらりと揺れる。咄嗟に鉤爪で外套の布に捕まり振動に耐え、素早く辺りの気配に耳と神経を澄ませた。
たぶんあいつだ。あの黒く巨大な鷲。……血の匂いはしない。

――主様、大丈夫? ケガしてねえ?

咄嗟のことで反響定位を使ってしまったけれど、周囲の状況は見えても同族でない主様に思いが伝わるはずもない。
軽く舌打ちをして二波に備えた。あの禍々しい爪が主様に突き刺さったら――考えただけで気が狂いそうになる。

「ふふ。すまない、この子は驚くほど短気なんだ」
「おまんあってのそん眷属じゃしのう。反吐出るほどそっくりぜよ」
「君が言えたことかい? 見たところ君の可愛い子は未だ全快には至っていないようじゃないか。――吸血鬼としての誇りや生、絆までを捨てた君に似て、とても脆弱だね」

揶揄どころではない。完全な嘲笑だった。

どくん、と心臓が高く鳴る。
あの鷲が大きく羽ばたいた音が届いた。けれどそれよりもっとずっと大きく、自分の鼓動が全身に響き渡る。

馬鹿にされた。
主様を。俺の、大事なひとを。

主様がどんな気持ちで……どんな想いで、この数百年を生きてきたか、知りもしない奴に。
ただ同族と、ただ純血種というだけの、他人に――。

「――……、……」

喘ぐように開けた口から、音とも空気ともつかない何かが這い出ていく。

許せない。許せない。許さない。

脳から全身へ同じ言葉が巡っていく。
血液が沸騰しそうだ。いつかの……襲撃を受けたあの夜のように。

「っ、……? 赤也、どうした」

いち早く気付いたのは主様だった。
ああ、でも、その声さえ、遠い――。

ぐらぐらと煮え立つ血が翼の隅までも行き渡り、かっと眼を見開いた。
瞬間、視界が白む。何も見えなくなる。
否。見えた。白んだ、と頭で理解できた。

「……っ! ば……っ、おま」

主様が短く叫ぶ。咎めの中にほんの少しだけ安堵を乗せて。

ゆっくり、ゆっくりと、目蓋を持ち上げた。
映り込んだのはどこまでも暗い空と月。両足には大地の感触。
右手を翳せば、そこに鉤爪はなく、望んでいた五指がある。

「……はあ……」

深く長く息を吐き出した。
久方振りの変化は怠さを伴う、らしい。うまく感覚が戻ってこない。

「――赤也……はあ……」

呼ばれ、緩慢に振り返る。声と同じくどこか疲弊した表情の主様は、変化を成した俺を一心に見つめていた。

「なんでこんタイミング……もうちっと辛抱しとけば……」
「そんなんムリっすよ。だって、ムカついたんだもん」
「……怪我は」
「とっくに治ってるっつの。主様が治してくれたじゃん、全部」

月光を背負う主様の瞳の中心には、俺しか。
漸く光を捉えた俺の瞳の中心には、主様しか。

溶けそうな琥珀が緩やかに歪む。

大丈夫なのか。そう問われている気がした。
大丈夫。そう瞳で返す。

感情の昂りで叶った変化だけれど、成した今、沸点を超えた怒りは何故か静かだ。きっとこうして再び主様の瞳の色を覗けたことも一因だと、お互いしか映さないまま薄く思う。
唇を動かし、喉を震わせれば、言葉が届く。
もうずっと当たり前になっていたそれが叶う。届くというだけで、同じものを目に映せるというだけで満たされる感覚。
眷属の誓約を交わした遥か昔に置き忘れていた想いを、改めて感じることが出来た。

「珍しいものを見たな。変化の瞬間を目の当たりに出来るなんて、それだけでもこんな山奥に足を運んだかいがあるというものだよ」

生温い夜風に柔らかな笑い声が乗る。 体勢を戻せば、惹き込まれそうなほど流麗な笑みを湛えた純血の君が、その肩に乗せた眷属の翼を撫でたところで。

「べっつに珍しくねえよ。その鷲だって変化くらいできんでしょ」
「ああ。そうなんだけどね。この姿のほうが性に合っていると言って、なかなか変化してくれないんだ」

話し相手には事欠かないから不便はないけれど。

そう言ってまた笑う。獰猛な猛禽類を眷属に加えるような攻撃性や澆薄さは、その笑みからは一欠片も窺えない。
それだけに恐ろしい。この純血の君は微笑みのまま「壊せ」と命じることが出来るのだから。俺はそれを、身を持って知った。
だからこそ一分の隙も見せられない。この背の向こうには、何より大切な主君と、その城がある。

貶すもの、侵すもの、揺るがすもの、すべてから護ると誓った。
主様と。主様を取り巻くすべてを。
そのためにまた、この足で立ったのだから。



書きたい所だけを抜き取ったらこんなことになりました。某さんには謝り倒しました。
おそらくこれ続きます。続くというか、これをベースに…いろいろと…やる予定、です。